社説<2015.7.25>

 沼津の高尾山古墳

 広く声を聞いて結論を

 沼津市の都市計画道路建設予定地にある高尾山古墳の行方に関心が集まっている。沼津市が道路建設を前提に墳丘を取り壊す方針を発表した同じ日に、日本考古学協会は古墳の保存を求める会長声明を出したことで、高尾山古墳は一気に注目を浴びている。

 古墳の存在は40年近く前から地元では知られていた。2008年から2年間の市教委の発掘調査で、土器や青銅器が多数出土し、古墳時代初期(3世紀前半)に造られた全長62㍍の前方後方墳と判明した。この時期の前方後方墳としては国内最大級で、日本考古学協会は「東日本屈指の有力首長が埋葬された」と歴史的な価値を訴える。

 現存する古墳をすべて残し、道路建設を進めることは現実的に困難なのは否めない。まずは幅広く声を聞き、打開策を探ってほしい。

 古墳周辺の自治会が道路の渋滞緩和などのため、道路の早期建設を求めていることも忘れてはならない。市議会は6月定例会で墳丘の取り壊しを伴う発掘調査費5100万円を盛り込んだ補正予算案を可決した。しかし、古墳の存続を求める声が高まる中、栗原裕.康市長は道路建設を強行しない考えを述べた上、今後の計画を学識経験者などを交えて公開の場で協議していく方針を表明した。古墳を保存するか、取り壊すか、のいずれでも、地域の遺産として活用できるような知恵も出し合う場にしてもらいたい。

 日本考古学協会の会長声明は、085月に広島県福山市鞆(とも)の浦で計画されていた埋め立てなどの撤回を求めて以来という。同様に静岡県考古学会も、30年近く前に磐田市の一の谷中世墳墓群の保存を要望した時以来となる声明を出した。

 沼津市も古墳の価値を認めていないわけではない。古墳がこのように注目される以前から、墳丘を壊さないで道路を建設する手法を探ってきたのは確かだ。迂回(うかい)路や古墳の下を通る地下道の建設、道路の高架も検討したが、構造上無理と判断した。墳丘の一部を残して道路建設を進める手法も考えたが、新たな用地買収が必要になるなど実現へのハードルは高いとして、墳丘を取り壊す道路建設の計画を立てた。

 こうした経緯も沼津市は今後の議論の中でしっかり説明すべきだ。貴重な前方後方墳と分かる前に、墳丘の3割近くが既に工事などで取り壊されている現状を認識する必要もある。

 地元の住民有志も保存を求めて活動する団体を結成した。道路建設を望む住民との対立に至るような議論は避けなければならない。

【静新平成27725()社説】