「沼津港の不法係留」
二次災害強まる懸念
国と県、連携強化が急務

プレジャーボートの不法係留が長年の懸案になっている沼津港と狩野川河口域。浜名港や清水港などかつては不法係留の代名詞だった港湾で対策が進む中、港が狭いことや国と県の管理が重複する特殊事情などから対応が遅れてきた。
国は来年度早々にも強制撤去に乗り出す方針を掲げているが、「受け皿整備が先決」とする県との間で調整が難航している。
沼津港は県内の港湾で唯一、国が管理する一級河川の狩野川が流れ込むため、河川管理者(国)と港湾管理者(県)が異なる特殊な地域で、以前から連携不足も指摘されてきた。昨年五月には水域利用者を含めた「沼津地域水域利用推進調整会議」を設立し、これまで二回の会合を持ったが、意見集約はこれからだ。
河口域の不法係留船はバブル期に増え、一時は三百隻を超えた。国土交通省沼津河川国道事務所は平成十四年ごろから指導を強化。昨年末までに百五十隻程度にまで半減したものの、現在、県内で最も不法係留が多い。
同事務所は昨年十一月末、さらに踏み込んだ対策として、河口域を重点的撤去区域に設定した。所有者に通達した是正期限は今月二十日で、今後は強制撤去に向けた手続きを行う方針だ。
これに対し、県はあくまで受け皿の整備を先に進めたい考え。港が狭く十分なスペースを確保できないため、沼津市にも協力を求め、周辺漁港も活用した係留場所の確保を目指す。船の所有者の三割強は市外在住者で「受け皿がないまま規制を強めれば他へ流れるだけで、根本的な解決にならない」との懸念もある。
問題をさらに複雑にしているのが、河口部にある県の荷揚げ場の存在。使用許可を受けた漁船約三十隻が係留されている。同事務所はこれらの漁船を今回の一連の措置の対象から外したが、「係留を認めたわけではない。協議しながら撤去してもらう方向に変わりない」との姿勢を崩さず、関係者からは「地元の事情を分かっていない」と反発の声も上がっている。
ただ、不法係留船が問題になるのは、地震による津波や台風などの水害が発生した際、周辺住民や沿岸の漁業、定期船運航に多大な被害を及ぼす危険があるため。昨年九月の台風9号では、沈没や海への流出が相次いだ。同事務所の担当者は「二次災害を防ぐためにも対策は待ったなし」と警鐘を鳴らす。
沼津港は県の地震防災計画で防災拠点港に位置付けられ、東海地震など大規模な地震が起これば一帯の緊急物資や復旧資材の輸送拠点となる。湾内に船が流出し緊急輸送を阻害すれば、地域への影響は計り知れない。人命にかかわる事態を引き起こさないためにも、早急な対応が求められている。(東部総局・西条朋子)
(静新平成20年1月19日「解説・主張」)
二次災害強まる懸念
国と県、連携強化が急務

プレジャーボートの不法係留が長年の懸案になっている沼津港と狩野川河口域。浜名港や清水港などかつては不法係留の代名詞だった港湾で対策が進む中、港が狭いことや国と県の管理が重複する特殊事情などから対応が遅れてきた。
国は来年度早々にも強制撤去に乗り出す方針を掲げているが、「受け皿整備が先決」とする県との間で調整が難航している。
沼津港は県内の港湾で唯一、国が管理する一級河川の狩野川が流れ込むため、河川管理者(国)と港湾管理者(県)が異なる特殊な地域で、以前から連携不足も指摘されてきた。昨年五月には水域利用者を含めた「沼津地域水域利用推進調整会議」を設立し、これまで二回の会合を持ったが、意見集約はこれからだ。
河口域の不法係留船はバブル期に増え、一時は三百隻を超えた。国土交通省沼津河川国道事務所は平成十四年ごろから指導を強化。昨年末までに百五十隻程度にまで半減したものの、現在、県内で最も不法係留が多い。
同事務所は昨年十一月末、さらに踏み込んだ対策として、河口域を重点的撤去区域に設定した。所有者に通達した是正期限は今月二十日で、今後は強制撤去に向けた手続きを行う方針だ。
これに対し、県はあくまで受け皿の整備を先に進めたい考え。港が狭く十分なスペースを確保できないため、沼津市にも協力を求め、周辺漁港も活用した係留場所の確保を目指す。船の所有者の三割強は市外在住者で「受け皿がないまま規制を強めれば他へ流れるだけで、根本的な解決にならない」との懸念もある。
問題をさらに複雑にしているのが、河口部にある県の荷揚げ場の存在。使用許可を受けた漁船約三十隻が係留されている。同事務所はこれらの漁船を今回の一連の措置の対象から外したが、「係留を認めたわけではない。協議しながら撤去してもらう方向に変わりない」との姿勢を崩さず、関係者からは「地元の事情を分かっていない」と反発の声も上がっている。
ただ、不法係留船が問題になるのは、地震による津波や台風などの水害が発生した際、周辺住民や沿岸の漁業、定期船運航に多大な被害を及ぼす危険があるため。昨年九月の台風9号では、沈没や海への流出が相次いだ。同事務所の担当者は「二次災害を防ぐためにも対策は待ったなし」と警鐘を鳴らす。
沼津港は県の地震防災計画で防災拠点港に位置付けられ、東海地震など大規模な地震が起これば一帯の緊急物資や復旧資材の輸送拠点となる。湾内に船が流出し緊急輸送を阻害すれば、地域への影響は計り知れない。人命にかかわる事態を引き起こさないためにも、早急な対応が求められている。(東部総局・西条朋子)
(静新平成20年1月19日「解説・主張」)