○○のおかげ 榊原茂幸
新緑の若芽も葉の厚みと色を増して、夏本番を迎える身支度をしているように感じられる今日このごろです。こうした季節の移ろいを見たり、大気のふくらみを肌で覚えることができるのも、○○のおかげと言えましょう。
ものは「見える」「みる」では大違い、ということを実感できるのも、○○のおかげです。もったいぶりずに言いましょう。それは「野外スケッチ」なのです。
当然ですが、描くためには、描いてみたいものとしっかり向き合わなければなりません。日常生活の中で「見ている」「知っている」と言っても、いざ描いてみようとすると、たとえば犬と猫の区分ができなかったり、自転車の骨組みが分からなかったり、海の波一つ描けなかったり。自分には絵は向いていないんじゃないか、と最初は思うものです。
それでも、しぼらく繰り返しているうちに物の形や自然の広がり、家や道の構成に目鼻がついてきて、さらに遠近法の感覚が加わるまでに一年も待つ必要はありません。そこまでいけば、こっちのもの。それまでは夢中で、よく分からなかったことが楽しさに変わってきます。
旅先や毎日の散歩道、庭先で、「あっ、いいな」と思う心の瞬間と空間を自由に切り取ってサラッとスケッチノックに写しかえる。自紙に描かれた線や形は、不思議なくらいに自分の気持ちが乗り移る、水彩スケッチならではの世界です。
一枚の絵に凝縮された、その場の色彩や形、白の光と影、温度、風のそよぎ、静寂や、にぎわい、さらに、描いている時の心情までよみがえってくるのは、まさに野外スケッチの醍醐味と言えましょう。
まして、日常の生活の中での美しいものへの気づきや、旅先からのスケッチはがきは、送る相手に喜ばれる何よりの贈り物になります。
絵を見るのは好きだが、とても描くことはできないーと思っている方、今月二十四日から一週間、ギャラリー四季で開く「第4回スケッチ会作品展」にお出掛けください。そうすれば、月一回の野外スケッチの日をワクワクしながら待っている我々会員三十人の気持ちが、きっと理解できると確信いたします。
(スケッチ会会長、下香貫林ノ下)
(沼朝平成22年6月11日号)