沼津牧水祭碑前祭・芝酒盛
沼津牧水祭碑前祭・芝酒盛が十九日、千本浜公園「幾山河」歌碑前で開かれた。牧水の遺徳を偲ぶ取り組みで、六十一回を数えるが、今年は特に、松原をめぐる問題がクローズアップされる中での開催だけに、大正十五年、県の松原伐採計画に異を唱えて立ち上がり、これを中止させた牧水への関係者の思いが従来にも増して注目される碑前祭となった。
主催者あいさつで、沼津牧水会理事長で牧水が眠る乗運寺の住職、林茂樹師は、概略、次のような思いを語った。
秋の沼津の風物詩となっている碑前祭だが、今年は格別な思いで迎えている。
私は昭和五十一年に沼津牧水会の会長(後に社団法人となって理事長)になったが、前年の十月に先代であった父(乗運時前住職の輝彦師)が亡くなり、葬儀を終えた翌日から次の会長になるよう求められた。任にあらずと断わったが、牧水は千本松原を守った恩人であり、乗運寺に眠っている、乗運寺の住職である限り、会長になってもらわなくてはならないと言われた。
牧水は大正十五年、県の松原伐採計画に反対する運動に立ち上がり、その時、私の祖父(彦明師)も一緒に反対した。
私が会長を受けて三十九年。昭和二十九年に沼津牧水祭が始まり、四十九年からは芝酒盛も行うようになった。今では、沼津の文化を語り、発展を願う、楽しい集まりになった。
毎年、そのような思いで催してきて迎えた今年、九月四日、松原の中に築山が造られることが分かった。詳しく説明を聴くと、松を伐採するという。それを聴いて松の大切さを知らないのかと思った。百年、二百年たつ松が伐採される。設計したのは、きっと、そんな事情を知らない人に違いないと思った。
九月十六日は、八十八年前、牧水が福沢諭吉の時事新報に松の伐採に反対する文章を十四日からの三日間にわたって寄せた日の一日に当たるが、奇しくも、その日、私は「松を伐採しないでほしい」と市長宛てに最初のお願いをした。
十月に入って、伐採に反対する署名活動を始めたが、今、何千人かからの署名が寄せられている。人の命は、もちろん大事であって、それを守るためには、なんでもやらなくてはならないが、しかし、松を切らなくてもできるはず。
人の命を守ることは大切だが、自然を守ることも大切。議長をはじめ、市議の皆さんも真剣に考えてほしい。
沼津のまち、沼津の将来のために千本松原を守ってほしい。心を一にして、千本松原を愛した牧水を偲びながら、一献傾け、楽しい一時にすると同時に、沼津の発展に協力してほしい。
来賓祝辞に移ると、このあいさつに、栗原裕康市長は次のように応じた。
この問題(築山造成と、それに伴う松の伐採)は、防災と、自然環境をどう守るかということだと思う。今、(植物学者で)横浜国立大学名誉教授の宮脇昭先生に、沼津の森を、どう守り、育てていったらいいのか、教えていただいている。先生によれば、人が生まれる前に存在した木が、そこにあることが一番いいことだという。そういう森を守り、自然を守るようにしていきたい。
この問題については、宮脇先生にも来ていただき、防災面と、自然をどう守るのか聴き、すぐれて政策に沿って考えていきたい。
続いて、工藤達朗教育長が、自身が子どもの頃、松原や牧水歌碑の周りで遊んだことなどを話しながら、牧水祭にちなみ、中学生短歌コンクールが開催されていることを評価した。
この後、牧水の孫で沼津牧水記念館の館長を務める榎本篁子(えのもと・むらこ)さんが歌碑に献酒、献花。あいさつで、牧水が全国を歩き、各地の松原を知る中で、宮崎に生まれた牧水が、なぜ沼津に家を求めたかについて、富士山と千本松原を最も気に入ったからだとし、「全国に素晴らしい松原はあるが、ここの松原ほど素晴らしい所はないといい、子ども向けの童謡も作った。牧水が千本松原を愛し、保全に努力した、その沼津の松原を大切にしていきたい」と語った。
(沼朝平成26年10月23日号)
築山建設、松伐採で市長
「安全と自然環境両立」
沼津市の栗原裕康市長は21日の定例記者会見で、市が進める同市本に津波避難用人工高台「築山」の建設に伴う千本松原の松の伐採計画に対し、沼津牧水会などが見直しを求めていることについて、「市民の安全と自然環境を守る。この両立を目指して築山を造っている。松を切る切らないの感情論ではない」と述べた。
命を守る森づくりを全国で展開する横浜国立大の宮脇昭名誉教授を招き、現場を視察してもらった上で意見を聞き、今後の方針を決める考えを示した。見直しを要請する沼津牧水会の林茂樹理事長にも同席を要請する。栗原市長は「(築山を)できれば年度内に完成させたい。どうせ造るならば市民合意を得て造りたい」と語った。
「松伐採見直しを」
沼津で牧水祭 林理事長が要請
沼津ゆかりの歌人若山牧水をしのぶ「第61回沼津牧水祭」(沼津牧水会主催)が19日、沼津市の千本浜公園で開かれた。県内外から文芸愛好家ら約500人が参加し、沼津の自然や酒を愛した牧水に思いをはせた。碑前祭では公園内の歌碑前に集まり、牧水の孫の榎本篁子・市若山牧水記念館長が酒や花をささげた。榎本館長は「牧水は千本松原と駿河の富士山に魅せられ、第二のふるさととして沼津に親しんだ。千本松原を次の世代に引き継いでほしい」と述べた。牧水にちなんだ舞踊や合唱も披露された。第25回中学生短歌コンクールで、市内14校1608首の中から特選に選ばれた9人の表彰も行った。
あいさつの中で沼津牧水会の林茂樹理事長が、市が同市本に津波避難用の人工高台「築山」の建設に伴い、千本松原の松を伐採する計画を受け、「牧水が愛した松を切らずに命を守る手段がある。守り続けて」と伐採の見直しをあらためて求めた。これに対し、栗原裕康市長は「防災と自然環境をどう守るかを考える」と述べ、11月に専門家による現地視察を行い、方針を決める考えを示した。
特選を受賞した生徒は次の通り。
山城聖河(暁秀)土井理沙(大平)大森瑛仁(第四)柏崎結衣(今沢)大橋広基(市立中等部)小沼桂大(暁秀)桑原更英(第五)斎藤るり(大岡)中川杏子(金岡)
(静新平成26年10月22日朝刊)