
イオンも戦略見直し
連結売上高五兆円に迫るイオンが、一千五百億円に満たないCFSコーポレーションの経営にこだわり、臨時株主総会での委任状争奪戦で統合を白紙に追い込んだ。イオンの岡田元也社長自ら「異例中の異例」と呼ぶ手段を取ったのは、CFSの離脱がドラッグストア戦略の根幹を揺るがしかねないとの危機感が背景にあるためだ。
これまでのようなグループ企業の自主性に任せる関係では、CFSのような離反の動きが出るだけでなく、グループ化の成果が十分得られないー。イオンは今後ドラッグ戦略の見直しに取り組むことになる。
イオンは、業界最大手のマツモトキヨシホールディングスに対抗するため、十社程度とドラッグ連合を形成。出資比率を三分の一以下に抑えた「緩やかな連携」を結んでいる。歴史の浅いドラッグ業界には、創業者が健在で独立心の強い企業が多いためだ。
しかし、参加企業からは「イオンとの縦の関係は強いが、横とのつながりが弱く利点は少ない」との声も漏れる。CFSがイオンに反旗を翻したのも「出店調整機能がなく、グループ内で競合してしまう」(石田健二会
長兼社長)という不満が原因だった。二〇〇六年には業界二位のスギ薬局が脱退し、グループ崩壊も危ぶまれていた。
来年からスーパーでの大衆薬販売が可能となり、他業態を巻き込んだ競争激化が予想される。急成長を続けたドラッグ業界は「五社ぐらいに集約される」(大手ドラッグ首脳)との見方もある。
業績が低迷しているCFSの株主からは「イオンにもっと関与してほしい」として、株式公開買い付け(TOB)を期待する声が出ていた。
CFS株主から四割超の支持を得たイオンの岡田社長は「重い責任を背負った」とした上で、「今後は結果を求められる」と、ドラッグ連合の成果を出すと決意表明。
ただ業界地図が激変する中で、CFSの自力回復を待つ余裕はない。今後、出資比率を高め、CFSの経営に積極的にかかわる方向にかじを切る局面も予想される。
■「説得力欠く」「対立、利益ない」
個人株主、今後を注視
沼津市で開かれたCFS臨時株主総会後、統合計画が否決されたことについて株主はさまざまな反応を見せた。
統合案に対して否決に回った三島市の自営業の男性(六一)は「石田さんの説明に誠意を感じなかった。何のための統合なのか説得力がなく、株式移転比率が株主の利益になるとは思えない」とCFSを手厳しく批判した。
同市内の男性(七四)は「アインは合併を重ねて短期間で成長した会社。統合する価値を『のれん代百三十五億円』と強調していたが、実像とは思えない」と反対票を投じた。
一方、賛成票を投じた株主は口々に不安を漏らした。沼津市の主婦(六〇)は「昔から慣れ親しんだ店が身近な存在でなくなるかもしれない」などと述べ、東京都の会社員馬庭修一さん(六一)は「イオンと提携して業績が伸びたわけでなく、イオンの策で業績が回復するとは思えない。最後は(CF
Sが)イオンに取り込まれてしまう」と懸念を示した。
三島市の男性会社員(三四)は「対立しても株主のためにならない。イオンには統合に賛成した株主の意見もくみ取って融和路線で」と大株主に注文をつけた。
■機会失われ遺憾
アインがコメント調剤薬局大手のアインファーマシーズは二十二日、CFSコーポレーションとの経営統合計画がCFSの臨時株主総会で否決されたことを受けて「統合は大変意義あるもので、機会が失われることは誠に遺憾。引き続きCFSとの友好と信頼の関係を築く」とのコメントを発表した。
アインが同日開いた臨時株主総会では統合が承認されたが、CFSの否決によって統合計画は白紙になった。
■二十二日に沼津市内でそれぞれ会見したCFSの石田健二会長兼社長と、イオンの岡田元也社長の一問一答は次の通り。
CFS 石田健二会長兼社長
全力挙げ業績回復
ー経営責任についてどう考えますか。
「統合案は否決されたが、われわれの目指す方向性は過半数の賛同を得た。今後は全従業員の力を合わせて業績を回復させ、株主の満足度を高める責任がある」
ーアインとの関係はどうなるのでしょうか。
「否決は考えていなかったので、何とも言えないが、これまでに築いた信頼、友好関係は今後も維持していきたい」
ーイオンが提案した企業価値向上策はどう受け止めますか。
「抜本的な対策、時代の変化への対応については盛り込まれていなかったが、当座の業績回復にはプラスになるものも。今後どうしていくかはイオンとの話し合いの中で決めていく」
ー委任状争奪戦でイオンとの関係にしこりが残るのでは。
「株主総会で岡田社長はにこやかに穏やかに質問されていた。こじれた関係が修復されるかは今は分からない」
イオン 岡田元也社長
反対は株主の総意
ー統合案が否決されましたが。
「当社が提案した企業価値向上策が多くの株主の賛同を得た結果だ。これまでの株主向け説明会で理解を得られたという感触は得ていた」
ー経営陣の責任についてはどう考えますか。
「実質、経営陣以外すべての株主が反対したと見ていい数字。石田社長は採決結果を重く受け止め、進退について冷静にお考えいただきたい」
ー委任状争奪戦を振り返り、今の心境は。
「今回の手段は異例で軽々しくやるべきことでない。ただ、これまでの経営陣の動きはビジネスの常識を欠いていた。多くの株主に迷惑を掛けたが、他の株主の考えを聞き、当社の思いを聞いてもらう機会になった」
ー経営陣がさらにアインとの統合への動きを見せたらどう対応しますか。
「対応の手段は限られている。TOB(株式公開買い付け)は考えたくない」