高尾山古墳の取り壊し 沼津市、方針白紙に
沼津市は6日、都市計画道路「沼津南一色線」の予定地にある高尾山古墳(同市東熊堂)をめぐり、調査発掘のために墳丘を取り壊すこれまでの方針をいったん白紙に戻し、新たに設置する有識者を交えた協議会で現状保存と道路整備の両立を図るために議論を進めていく考えを明らかにした。
同古墳は2008~14年の市教委の発掘調査で、古墳時代初期(3世紀前半)の東日本最大級の前方後方墳と判明した。栗原裕康市長は6日の会見で、5月一に日本考古学協会が出した保存活用を求める会長声明などをきっかけに多くの市民が古墳に関心を持ったことを重視し、「市が出した(墳丘取り壊しの)結論にこだわらず、一から検討することに決めた」と方針変更の理由を説明した。
墳丘取り壊しを伴う調査発掘の費用5100万円を盛り込んだ一般会計補正予算案は6月定例議会で可決したが、予算の執行は一時停止するという。
協議会の委員は日本イコモス国内委員会事務局長の矢野和之氏、都市計画に詳しい大学教授、難波喬司県副知事らの5人。アドバイザーとして国土交通省、文化庁の職員各1人が加わる。
第1回協議会は9月3日に同市のプラサヴェルデで行い、一般に公開する。本年度内に3回程霧論を重ね、実現可能性のある選択肢を検討する。市民らの意見を聞く機会も別に設ける方針。
栗原市長は「協議会の議論を踏まえ、最終的な判断を下したい」と述べた。
「評価できる」 市民の会代表
沼津市が6日、高尾山古墳取り壊しの方針をいったん白紙に戻したことについて、古墳の現状保存を求める「高尾山古墳を守る市民の会」の杉山治孝代表は「市民の声に理解を示したという点で評価できる」と肯定的に捉えた。
道路の早期完成を求める要望書を栗原市長に提出した周辺5自治会の一つ、東熊堂自治会の杉山僖沃会長は「文化財を否定するつもりはないが、道路と現状保存の両立は無理だろう」と現地で生活する立場としての実感を繰り返した。
古墳の保存活用を求める会長声明を出した日本考古学協会の橋□定志理事は「地域のアイデンティティーを育むための方策を考えてほしい」と協議会の議論に期待を示した。
【静新平成27年8月7日(金)朝刊】
静岡・高尾山古墳:撤去方針を沼津市長が撤回 「反対、想定以上」
毎日新聞 2015年08月07日 東京朝刊
道路建設で取り壊される予定だった静岡県沼津市の高尾山古墳について、同市の栗原裕康市長は6日の記者会見で「方針を白紙撤回する」と表明した。高尾山古墳は3世紀前半に築造された東日本最古で最大級の前方後方墳。市は今後、古墳の現状保存と道路建設の両立を目指す。
市は5月に取り壊し方針を表明し、今年度補正予算に関連事業費を計上した。日本考古学協会は保存を求める会長声明を出し、市内では保存を求める3団体が設立された。栗原市長は方針転換の理由について「報道と会長声明をきっかけに、全国から想定をはるかに上回る意見を頂いた。反省したい」と述べた。【石川宏】
高尾山古墳:撤去方針を沼津市長が撤回
毎日新聞 2015年08月06日 20時04分(最終更新 08月06日 21時49分)
道路建設で取り壊される予定だった静岡県沼津市の高尾山古墳について、同市の栗原裕康市長は6日の記者会見で「方針を白紙撤回する」と表明した。高尾山古墳は3世紀前半に築造された東日本最古で最大級の前方後方墳(全長約62メートル)。市は今後、古墳の現状保存と道路建設の両立を目指す。
市は5月に取り壊し方針を表明し、今年度補正予算に関連事業費5100万円を計上した。日本考古学協会は保存を求める会長声明を出し、市内では保存を求める3団体が設立された。
栗原市長は方針転換の理由について「報道と会長声明をきっかけに、全国から想定をはるかに上回る意見を頂いた。反省したい」と述べた。現状保存と道路建設を両立する具体策は、有識者でつくる協議会を9月に設置し、検討する。
日本考古学協会の篠原和大理事は「邪馬台国の時代の古墳。将来にわたり、歴史を正しく理解する上で現状保存は欠かせない。歓迎したい」と評価した。【石川宏】
古墳取り壊しは一旦白紙に
協議会で道路との両立考える
市は六日、臨時記者会見を開き、高尾山古墳保存問題に関する協議会の詳細を発表した。協議会は古墳保存と沼津南一色線整備の両立を図るためのものと位置付けられ、栗原裕康市長は、市の従来の計画(*)について「白紙撤回する」と表現したほか、「保存」という言葉の定義については「現状保存」と明言した。
9月以降、3回の協議会
結論参考に市長が最終決断
会見には栗原市長のほか藤岡啓太郎副市長、間一宮一壽都市計画部長が出席した。間宮部長が協議会の概要資料を読み上げ、藤岡副市長が詳細説明をする形で会見は進められた。
会見によると、協議会の開催目的は「古墳保存と道路整備の両立を図るため、実現可能性のある選択肢を検討し、市が事業方針を決定するために必要な条件整理等を客観的に行う」ことだという。
協議会は従来の計画にこだわらず、あらゆる可能性が追求される場になるというが、協議会が何らかの最終案や結論を出すのではなく、最終決定は市長が下す。市長が結論を出す際の判断材料を提供することが、協議会の役割となる。
協議会は五人の委員と二人のアドバイザーで構成される。それぞれの顔触れは次の通り。
委員▽大橋洋一氏=学習院大学法科大学院法務研究科長、専門は行政法と都市計画
▽久保田尚氏=埼玉大学大学院理工学研究科教授、専門は都市計画
▽矢野和之氏=文化財保存計画協会代表取締役、日本イコモス国内委員会事務局長、専門は文化財保存計画
▽難波喬司氏=静岡県副知事、京都大学客員教授
▽杉山行由氏=県教委教育次長
アドバイザー▽神田昌幸氏=国土交通省街路交通施設課長
▽禰宜田佳男氏=文化庁記念物課主任文化財調査官
協議会のスケジュールについては、第1回を九月三日にプラサヴェルデ会議室で開き、今年度内に三回程度の開催を予定している。市長が最終決定する期限については特に定められていない。
また、協議会は一般傍聴可能だが、市民意見の扱いにういては、意見聴取の機会を設ける予定はあるものの、協議内容にどのように反映させるかは検討中。
今回の会見を受けて、古墳保存要望活動を続けている「高尾山古墳を守る市民の会」の杉山治孝代表は「当初は再検討はあり得ないとされていた市の方針が白紙に戻った。これまでの私達の運動に何らかの意味があったと思いたい。協議会には、市民の声が反映されるような仕組みをお願いしたい。これからも古墳の価値を一人でも多くの市民に伝える活動を続けていく」と話した。
一方、これまで長年にわたり沼津南一色線早期整備の要望活動を行ってきた岡宮自治会の会長も務めた門池地区連合自治会の佐野親邦会長は「まずは道路が整備されないと、周辺地域の交通安全など生活環境の問題が解決されない。歴史も大事だとは思うが、協議会では、今を生きる人の生活のこともしっかりと取り上げてほしい」と望んだ。
(*)従来の計画=古填表面の土を少しずつ剥ぎ取りながら古墳の内部構造や建造方法などを調査し、この調査で姿を消す古墳墳丘部の跡地に車道を建設、古墳を取り囲む堀(周溝)の一部は埋め立て、その上に歩道を建設するというもの。
この結果、周溝の一部のみが地下に保存されることになる。周溝の一部保存のみであっても、古墳の正確な所在地を後世に伝えられるという意義がある。
多くの人が古墳に関心
市長が従来方針「白紙撤回」の背景脱明
会見中、従来の方針の「白紙撤回」に至った理由を問われた栗原市長は「古墳の価値については初めからしっかりと認識していた。(古墳の取り壊しを)隠れて、こそこそとやるつもりではなかった」と前置きした上で、「古墳を別の場所にていたが、保存を求める学会声明等があった」「テレビなどの報道機関が取り上げなければ高尾山古墳のことを知らなかった人も多かっただろうが、想定よりもはるかに多くの人々が古墳に対して関心を持っていることが分かった」などと答えた。
また、沼津南「色線と高尾山古墳に対する民意をどのように捉えているかを問われると、「市民の意見はいろいろある。『古墳をすぐに壊して道路建設を進めてほしい』『道路を造らないでほしい』といった極端な意見もあるかもしれないが、大まかなところでは『両立を望む』が市民の考えとなるのではないか」との見方を示した。
このほか「協議会の委員に考古学の専門家が入っていない」という指摘には藤岡副市長が答え、「古墳の価値は参加者全員が共有しているという前提になっている。文化庁からのアドバイザーもいる」として、考古学者の参加は不要だとの考えを示した。
【沼朝平成27年8月8日(土)号】