2019年(令和元年)5月16日木曜日
スルガ銀業務提携で再建へ
新生銀、ノジマと合意
シェアハウスなど投資用不動産への不正融資で業績が悪化していたスルガ銀行は15日、新生銀行と家電量販店ノジマとそれぞれ同日付で業務提携に基本合意したと発表した。投資用不動産向け融資の全件調査(約3万7千件)の結果も公表し、不正行為が認められた物件数は7813件で、融資額は5537億円に上った。不動産業者が関与するなど「不正の疑いがある」ケースを含めると1兆円を超える。=関連記事9、27面へ
不正融資は1兆円超
スルガ銀が同日発表した2019年3月期連結決算は不正融資に伴う貸倒引当金の計上が影響し、純損益が971億円の赤字だった。
投資用不動産向け融資の全件調査では、不正が認められた融資のほか疑いがある融資は約860億円に上った。さらに、行員の不正とは別に、不動産業者が頭金を「立て替えた疑いがある」ケースも約4300億円あると判明。全件調査を受け約9億円の貸倒引当金を追加計上した。
新生銀行とは、住宅ローンなど個人向けローン、事業承継など法人取引分野での連携を進める。スルガ銀の株式を取得していたノジマとは、クレジットカード事業などを共同で取り組んでいく。
沼津市内で記者会見した有国三知男社長は両社との業務提携について「新生銀の個人向け融資事業のノウハウと融合すれば新しい物が生み出せる。ノジマとも新しいことが実現できる」と期待感を示した。
18年10月時点で488億円とされた創業家一関連企業への融資残高について有国社長は、保有不動産売却により455億円に減ったと説明。創業家の保有株式取得については「(スルガ銀が)買い取ることも選択肢の一つ」と述べた。
スルガ銀決算会見の骨子
・新生銀行とノジマと業務提携することで15日付で基本合意
・投資用不動産向け融資で不正行為が認められた物件数は7813件で、融資額は計約5537億円。不動産業者の関与など「不正の疑いがある」ケースを含めると融資額は1兆円超
・不正に関与した行員として新たに2人を懲戒処分
・2019年3月期連結決算の純損益は約970億円の赤字
・創業家系関連企業の融資残高は18年10月時点の488億円から、保有不動産売却による回収で455億円に
メモ 新生銀行1998年に経営破綻し一時国有化された日本長期信用銀行が前身。2000年に現在の行名に改称し、04年に普通銀行に転換した。連結ベースで19年3月末の預金残高は5兆9221億円、貸出金残高は4兆9868億円。
ノジマデジタル家電や携帯電話に代表されるキャリアショップ、インターネット事業などを手がける大手家電量販店。設立は1962年。2019年3月期連結決算の売上高は5130億円、純利益は146億8千万円。総店店舗数は851店舗。
経営足元盤石と言えず
先行き不透明課題多く
解説
投資用不動産の不正融質で経営が悪化していたスルガ銀行は立て直しに向け、新生銀行、ノジマと業務提携を結ぶことになった。投資用不動産融資は全件調査を終え、弁護士らでつくる委員会の承認を受けて5月下旬には再開する方針だ。経営立て直しへと大きく動きだすものの、足元が盤石とは言えず、再建に向けた課題は少なくない。
15日に発表した2019年3月期連結決算では、20年3月期の業績予想では105億円の純利益を予想する。個人ローンの貸出金残高で確保できると見据えた。また、今回の両社との締結は業務提携にとどまり、資本提携に至っていない。有国三知男社長は信用を補完するための資本提携は「企業価値に資するものであれば排除しない」と他の金融機関などとの連携も模索する考えを示す。
創業家が保有する株式の売却を含め、創業家との決別など先行きを見通せない課題も多い。(東部総局・杉山武博)
行員不正関与、7813件
社長「誠に申し訳ない」
シェアハウス向けなど投資用不動産への不正融資を対象にした全件調査を15日明らかにしたスルガ銀行。行員による不正が認められた融資は7813件、5537億円。不動産業者らの関与や行員による不正の「疑いがある」ケースまでを含めると融資額が1兆円超となる結果が判明した。有国三知男社長は同日の記者会見で「不正が検出されたのは誠に申し訳ない」と不正行為が横行していた事実を謝罪。不正に関与していた行員を処分したことも明らかにした。
調査は同行が2018年10月に金融庁から受けた業務改善命令の一環で始まった。シェアハウス向けだけでなくワンルームなど投資用不動産融資の全て3万7907件に対象を広げ行われた。
調査を担ったのは弁護士ら専門家約70人でつくるチーム。対象物件の所有者が持っている契約資料と同行が保管する審査資料の突き合わせ、稟議(りんぎ)資料の検証、面談や電話によるヒアリングなどの作業を6カ月かけて行い、行員の不正や不正の疑いがもたれる案件を突き止めた。
不正物件に関与していた行員332人に対するヒアリングも実施。預金通帳や源泉徴収など資料の改ざんに手を染めた行員は35人、改ざんを知りながら融資を実行した行員は40人にのぼった。いずれの行員も懲疲処分となっている。
調査の過程で本来債務者が支払うべき不動産購入資金を不動産業者が立て替えていた疑いのある物件が判明した。
創業家依然株保有13%
融資は若干回収進む
スルガ銀行の有国三知男社長は15日の記者会見で、創業家が依然として13%の株式を保有していることを明らかにした。資本提携を検討していく中での処理を考えているとしつつ「条件面などで必ずしも先方と創業家側が折り合っていない現実がある」と説明。今後は「自己株買いも選択肢の一つ」との認識を示した。
創業家系関連企業への融資については現段階で残高が455億円になっているとした。昨年10月に金融庁から行政処分を受けた際は488億円だったが、創業家側の保有不動産の売却によって若干、減少した。
有国社長は「資本、融資の回収が進んでいないというご批判には率直におわびしたい。ただ、創業家支配からの脱却に向けた体質改善は着実に前進している」と述べた。
【静新令和元年5月16日(木)朝刊】