検証 スルガ銀問題 下
問われる「地銀の責務」
信頼回復再生への道
「以前にも増して地域の振興へ力を入れてほしい」ー。投資用不動産融資を巡る不正が横行していたスルガ銀行に対し、金融庁が一部業務停止命令を出す2日前の3日午前。沼津市のスルガ銀本店を訪ねた沼津商工会議所の岩崎一雄会頭は、向かい合った有国三知男社長にこう伝えた。
両者の面会は、有国社長が9月に就任してから初めてのこと。開口一番、不祥事を陳謝したという有国社長に向けられた岩崎会頭の言葉には、「いま一度、この地域に目を向けてほしい」という地元経済界トップとしての思いが込められていた。
約30年前にリテール(個人取引)特化の戦略へかじを切ったスルガ銀。独自のビジネスモデルで成長を続けるにつれ、主戦場は首都圏などへと移り、地元とは距離が生まれていった。「ポートフォリオ(資産構成)を都市部に寄せすぎた」(有国社長)ことは結果的に、今回の不正融資問題にもつながった。
第三者委員会は、不正の舞台となったパーソナル・バンクが利益至上主義へと暴走した原因の一つに、「他に業績を頼る部門がなかったこと」を挙げた。県内などのコミュニティ・バンクにも「無関係でない」と断じた文言は、足元の弱さゆえに起きた問題でもあったことを印象付けた。
今後の焦点はスルガ銀の再生へ移る。不正がまん延していた企業風土の改善やシェアハウスオーナーへの対応、高収益の源泉だった投資用不動産融資に代わる新たなビジネスモデルの構築といった山積する課題に加え、そこでは地域経済を支える地銀本来の責務も問われる。
有国社長は「リテールを中心とした業務運営に変わりはない」とするが、県内には長年にわたりスルガ銀と取引をしている中小企業なども少なくない。同市中心部で商店を営む男性は「資金だけでなく、知恵や情報など地元の銀行だからこそ持っているものを、地域の産業界発展のために提供してほしい」と望む。
金融などが専門の丹羽由一静岡産業大経営学部長は「地銀はまさに地域の顔」と強調。スルガ銀の再生を左右するのは、信頼を回復した上に産学官金の要の役割や事業承継などの仲介機能を果たすことで、「地域から頼られる存在になれるかどうかだ」と見通す。
就任時に「地域のお客さまも大切にしていく。もう一度、取引したいと思ってもらえるような銀行にしたい」と誓った有国社長。その道筋をどう描くのか。創業の地からも厳しい視線が注がれている。
(東部総局・橋爪充、経済部・関本豪が担当しました)
【静新平成30年10月8日(月)朝刊】