時評 小川良昭

 学術会議の任命拒否問題

 裁量権逸脱かを判断

 2020年12月16日04時36分05秒0001このところ、日本学術会議の会員候補者の任命拒否問題が議論されています。

 日本学術会議は、1949年に「科学が文化国家の基礎であるという確信に立って、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与すること」を使命として設立されました。

 日本学術会議は、内閣総理大臣の所轄の下に、政府から独立して職務を行う特別な機関で、非常勤の特別国家公務員である210人の会員によって組織され、ほかにも約2千人の連携会員がいます。運営費は、総額約500億円を要したというアベノマスクに比べ、国費である日本学術会議の予算は、わずか約10億円ですが、うち約4割が約50人の職員の事務経費で、実際にさまざまな職務にあたる会員の活動経費はなかなかに窮屈なようです。

 今回、6人の会員候補者の任命が拒否されましたが、日本学術会議法では「日本学術会議は、優れた研究又は業績がある科学者を選考し、会員候補者として内閣総理大臣に推薦し、同大臣が任命する」とされています。

 そこで問題となるのは、内閣総理大臣の任命権の内容です。任命拒否理由について、これまで菅義偉総理大臣は、「総合的・俯瞰(ふかん)的な観点」「多様性の確保」「個別の人事」「国民・国会への責任」などを拒否理由にしているものの、残念ながら具体的な拒否理由は説明していません。

 ところで、行政行為では、時として、行政機関の裁量権の逸脱が問題となりますが、裁量は無制限ではなく、その行政行為について定める法律の制度や趣旨に照らして裁量の逸脱の有無を検討します。今回の任命拒否行為も行政行為ですから、法律的には、日本学術会議法の制度や趣旨に照らして拒否行為が裁量権の範囲を逸脱しているか否かを判断することが必要です。 その観点からしますと、任命拒否理由については、明確な理由が明らかになることが必要と思います。メディアによると、多くの国民が拒否理由を知りたいと報道されていますが、一法律家の私もその理由を知りたいものです。

 最後に一言です。今回の任命拒否を契機に、日本学術会議の在り方そのものも議論されるようになりました。しかし、日本学術会議の在り方の問題と、会員候補者の任命の問題とは全く異なるものであると思います。その在り方については、今後、日本学術会議法の制度や趣旨とともに、科学や学術の意味をも熟慮検討するなどして議論が深まることが望まれます。(弁護士)

 

☆ おがわ・よしあき 県弁護士会沼津支部所属。19449月、沼津市生まれ。沼津東高、京都大法学部卒。裁判官を経て弁護士に転身。日弁連常務理事、県弁護士会会長を歴任。元沼津市選挙管理委員会委員長、元法テラス沼津支部長。現在、県人事委員会委員長。

【静新令和2年12月16日(水)朝刊「時評」】