新幹線放火2死亡 小田原で緊急停止
30日午前11時40分ごろ、神奈川県小田原市で、新横浜ー小田原間を走行中の東海道新幹線「のぞみ225号」の車内で火災が発生し、緊急停止した。県警によると、先頭車両で男が油のような液体をポリタンクからかぶり、ライターで火を付けた。焼身自殺を図ったとみられ、男と女性が死亡した。小田原市消防本部によると、1~65歳の26人が気道熱傷や一酸化炭素(CO)中毒などで重軽傷を負った。県警は現住建造物等放火容疑で捜査している。
捜査関係者によると、死亡した女性は横浜市青葉区荏田町、整体師桑原佳子さん(52)で、男は東京都杉並区西荻北、職業不詳林崎春生容疑者(71)。新幹線車囚で起きた事件や事故としては、過去最悪の被害となった。
JR東海によると、火災で上下計43本が運休し、106本が最大4時間半遅れ、約9万4千入に影響した。
JR東海や国土交通省などによると、火災は先頭の1号車で発生。運転士が1号車前方で油まみれになっている林崎容疑者を発見、消火活動した。桑原さんは1号車と2号車の間付近に倒れていた。目立った外傷はなく、煙を吸い込んだとみられる。1~3号車の乗客は後ろの車両に避難した。
県警によると、林崎容疑者は火を付ける直前に1号車最前列にいた60代の女性の乗客に「拾ったからあげる」と千円札を数枚差し出し、女性が「いらない」と話すと、液体をかぶった。「やめなさい」と言う女性に、林崎容疑者は「あなたも逃げなさい」と答えた。女性が逃げながら途中で振り向くと、林崎容疑者が燃えていたという。
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仁王立ち、自らに「油」
新幹線放火 鼻つく異臭、広がる炎
1号車最前方のデッキに通じる自動扉の前に仁王立ちした男が突然、手にしたポリタンクから自分の体に油のような液体をかけた。「火をつけやがった」。鼻をつく異様な臭いが広がると同時に、誰かが叫ぶ。天井や壁がオレンジ色に燃え上がり、乗客は押し合うように後ろの車両へと逃げ出した。
30日の東海道新幹線の火災は、2人が死亡、20人以上が負傷する大きな被害をもたらした。乗客の証言から再現した。
東京駅を午前11時に出発したのぞみ225号の1号車に男が姿を見せたのは、11時20分ごろに新横浜駅を出た後だった。
「拾ったからあげる」。1号車最前列に座っていた60代女性に、男が千円札を数枚差し出した。断られると通路をうろつき始めた。「たばこをどうだ」。そう声を掛けられた乗客がいらないと応じると、男は言った。「危ないから出て行け」
6列目にいた男性(58)は、その不審な動きを目で追っていた。「後ろから歩いてきて、先頭のデッキで折り返し、空席があるのに通り過ぎた。1~2分後にまた戻ってきて、デッキの中に入っていった」
自動扉が開いたとき、男は右肩に白いポリタンクを担いでいた。通路の真ん中に立ったまま、右肩からピンク色の液体をかけた。「焼身自殺だ」。男性は直感した。
千円札を差し出された女性は「やめなさい」と諭したが、男は「あなたも逃げなさい」と返しただけだった。
男の足元から床に広がる液体は、きつい臭いを発していた。「ガガソリンだ」「灯油だ」「逃げろ」。男が火を付けたのは午前11時40分ごろ。弁当を広げたり、パソコンでメールチェックをしたりしていた乗客は一斉に席を立つと、後方車両に向けて逃げ出した。1号車にいた男性会社員(43)は「煙と熱が一気にやってきた」と振り返る。2号車に駆け込んだが、煙は容赦なく入ってきた。「避けようとして猫背になって進んだ。押し合いへし合いになってなかなか前に進まず、もう駄目かなと思った」
正午すぎに現場に到着した消防隊員は、通路にあおむけで倒れている男を確認した。その周囲が特に焦げていたという。「見た瞬間、搬送する必要がない状態だとすぐに分かった」。神奈川県警によると、近くにはリュックサックが置いてあり、中にはたばこ、歯ブラシ、ティッシュペーパーなどが入っていた。
火災車両三島車両所へ
30日午前、神奈川県内を走行中に火災が起きたJR東海道新幹線下り「のぞみ225号」は、約800人の乗客を小田原駅で降ろし同日午後5時15分ごろ、低速走行で三島駅に姿を見せた。
16両編成の車両は三島駅に止まらずに通過し、駅西側の線路上で10分ほど停止した。先頭車両は外観だけでは火災が発生したことが分からない状態。その後、再び徐行を始め、同50分すぎに車両すべてが三島車両所に入った。JR東海静岡支社によると、車両所内では神奈川県警小田原署と小田原市消防本部による現場検証が行われたという。
【静新平成27年7月1日(水)朝刊】